運送業界では粗利率が高ければ安心という認識が一部で根付いていますが、この理解には注意が必要です。粗利率は確かに経営の健全性を示す重要な指標ですが、見かけの数字に惑わされることで正しい判断ができなくなるリスクも含んでいます。
まず、粗利と営業利益の違いを混同してしまうことが多く見られます。粗利は売上から売上原価を差し引いたものであり、まだ人件費や管理費などの経費を差し引く前の段階です。ここでよくある誤解が、粗利が高ければ会社にお金が残るといったものです。実際には、粗利が高くても販管費がかさんでいれば営業利益は圧迫されます。
また、売上原価に含まれる費用の範囲を正確に把握していないケースも多く、例えばドライバーの人件費をすべて販管費に入れてしまうと、実際の粗利率が実態より高く見えてしまいます。粗利に人件費をどのように含めるかは、会計上のポリシーに依存しますが、経営判断を誤らないためには一貫したルールでの計算が求められます。
さらに、定期便とスポット便を同じ指標で評価してしまうミスもよくあります。定期便は固定費の配分が安定するため粗利が読みやすいのに対し、スポット便は原価が変動しやすく、単価が高くても粗利率が低下することがあります。便別に粗利率を計算し、業務ごとに正確な分析を行うことが不可欠です。
以下の表は、粗利率に関する典型的な誤解と、注意すべきポイントを整理したものです。
誤解の内容
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実際の注意点
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粗利率が高ければ会社の利益も高い
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粗利だけでは販管費の影響が考慮されていない
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売上が伸びていれば粗利率も良化する
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売上原価が増加していれば、むしろ粗利率は低下する可能性がある
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ドライバーの人件費は粗利に含めない
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配送業務の主たる原価として含めることが適切な場合もある
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定期便とスポット便を同じ基準で評価する
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原価構造が異なるため、評価指標も分けて考えるべき
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粗利率の月次推移だけを見て判断する
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単価、稼働率、配車効率など他指標と合わせて分析すべき
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粗利率を活用した経営判断は、数値の背景にある業務構造を深く理解してこそ意味を持ちます。単なる割合にとどまらず、その指標が何を示しているのか、どのような前提で計算されているのかを明らかにすることが、正確な経営判断に直結します。
粗利率を継続的に改善し、収益性の高い体制を築いている運送会社には、共通して見られる習慣と思考の特徴があります。単なるコストカットや売上増加ではなく、日常業務に組み込まれた継続的な改善文化が、結果として粗利率を底上げしています。
第一の習慣は、数字を現場と共有し、可視化を徹底していることです。多くの企業では粗利率や売上、稼働率などの数値を経営層だけが把握しており、現場にまで降りていないことがあります。成功している企業では、配車担当やドライバーにも数字を見せ、なぜこの便は利益が出にくいのかどの荷主の案件が効率的かを日々の業務判断に組み込んでいます。
第二の思考法は、原価を常に疑う姿勢です。例えば燃料費や車両メンテナンス費といった直接費用だけでなく、見落とされがちな待機時間や積み降ろし時間の隠れ原価までを含めて評価する文化があります。こうした視点を持つことで、業務過程そのものを再設計し、ムダな時間やコストを削減できるようになります。
第三の習慣は、粗利を行動でコントロールできるものと捉えている点です。数値は結果であり、その原因となるのは日々の配車判断、ドライバーの走行管理、荷主との条件交渉など多岐にわたります。成功している企業では、粗利率が低下した原因を誰が悪いかではなくどの過程に改善余地があるかという視点で分析し、現場から改善案を吸い上げて試行を繰り返しています。
こうした習慣を身につけるには、制度や仕組みの整備も欠かせません。例えば粗利率が高い便にインセンティブを与える評価制度や、配車システムと損益管理システムの連動によるリアルタイム原価把握などがあげられます。
粗利率改善は単発のプロジェクトではなく、組織としての習慣づくりがカギを握ります。そのためには経営層だけでなく、現場を巻き込んだ継続的な取り組みが不可欠です。習慣と文化を変えた企業だけが、変動する物流市場においても安定した利益を維持できる体質を築くことができます。