「適切な分類ができていない」ことによる集計ミス
運送業において原価管理を正確に行うためには、まず費用項目の分類を正確に把握することが不可欠です。しかし、多くの現場では経費の振り分けや集計においてミスが生じやすく、それが経営判断の誤りに直結してしまうケースが後を絶ちません。
具体的な事例としてよく見られるのが、複数の車両で共有している燃料費やタイヤ代、オイル交換費用などを一律に全車両へ均等割りしているパターンです。一見、手間が省けるように思えますが、実際には運行頻度や車種、燃費性能の違いにより、費用負担の実態とはかけ離れた数字になってしまうことがあります。この結果、稼働率の高い車両の採算性が見誤られ、収益管理の精度が大きく下がってしまうのです。
また、ドライバーに支給される通勤手当や福利厚生費を「人件費」に計上するのか「一般管理費」に入れるのかといった仕訳判断に迷いが生じることもあります。このような微妙な判断を誤ると、部門別原価や車両別収支の分析において齟齬が生じ、原価分析が形骸化してしまいます。
よくある分類ミスの事例を以下にまとめました。
費用項目 |
誤分類例 |
正しい分類の考え方 |
車両保険料 |
一括して「保険費」 |
車両単位で按分、用途別に集計 |
タイヤ代 |
すべて「整備費」 |
消耗頻度に応じて車両別に計上 |
通勤手当 |
一部を「福利厚生費」 |
原則として人件費に含める |
倉庫使用料 |
「地代家賃」に一括 |
保管機能と営業機能で区別して計上 |
交際費 |
一部を「営業費」 |
業務目的かつ記録が明確なもののみ計上 |
こうした誤分類を防ぐためには、運送業に特化した原価計算シートや会計ソフトを活用することが有効です。特に全日本トラック協会や各都道府県のトラック協会が提供する原価計算ツールには、実務に即した費目が網羅されており、初期導入の指導マニュアルも整備されています。
さらに、集計ミスの根本原因の一つに「手入力による作業負担」が挙げられます。エクセルを活用したシート入力では、数式エラーや転記ミスが発生しやすく、知らず知らずのうちに集計ミスが蓄積されてしまうリスクがあります。これを避けるためには、クラウド型原価管理システムを導入し、自動集計やデータ連携を行う環境の整備が重要です。
近年、運送業におけるデジタル化が加速しており、原価管理の分野でも「運行データと会計データの統合」が注目を集めています。GPSと連携した運行管理システムや、電子請求書との連動により、費用の自動分類やリアルタイム分析が可能になっています。これにより、集計ミスの余地を最小限に抑え、人的ミスによる経営判断のズレを防ぐことが可能です。
つまり、原価管理における「分類の正確性」と「運用の仕組み化」は、企業の利益を守るうえで欠かせない柱となります。導入コストを理由に手作業での管理を続けていると、長期的にはかえって損失を拡大させてしまうことにもなりかねません。正確な分類とリアルタイムの管理体制を構築することで、運送業者の収益性は大きく向上する可能性を秘めています。
人件費率や車両稼働率の見誤りが与える影響
原価管理の中でも、特に注意すべき指標が「人件費率」と「車両稼働率」です。これらの数値を正確に把握できていないと、現場の負担が見えなくなり、運賃交渉やコスト削減の施策に大きな誤差を生じさせてしまいます。
人件費率とは、売上に対する人件費の割合を示すもので、一般的に運送業界では30〜45%が適正水準とされています。しかし、ドライバーの長時間労働や繁忙期の残業増加などを正しく反映できていない場合、実際の人件費率はそれを大きく上回っている可能性があります。
同様に、車両稼働率の誤認も重大なリスクを孕んでいます。車両稼働率とは、所有する車両のうち、実際に業務で活用されている台数や時間の比率を意味します。たとえば10台のトラックを保有していても、常時稼働しているのが6台であれば稼働率は60%にとどまります。
ここでよくある間違いが「週1回の稼働でも動かしているから問題ない」と判断することです。実際には、車両維持費や固定資産税、駐車場代、保険料は車両数に応じて発生しており、稼働していない車両が収益に貢献していない分、固定費として大きな負担となってのしかかってきます。
正確な稼働率を把握するには、以下の指標を活用することが推奨されます。
- 月間走行距離
- 月間積載回数
- 無積載(空車)走行比率
- 車両ごとの燃費性能と稼働コスト
- 運行管理システムとの連携データ
これらの情報を基に、車両1台ごとの稼働効率を見える化することで、不採算車両の入れ替えや統合といった戦略的な車両管理が可能になります。
さらに、誤った人件費率や稼働率に基づいて策定された運賃や契約条件は、交渉の場において不利に働くリスクがあります。2025年現在、「標準的な運賃」を基にした交渉が推奨されていますが、自社の原価構造を正確に提示できない場合、適正な運賃を得ることは困難です。