運送会社における安全目標の策定は、単なる形式的な書類作成ではなく、事故防止や運輸安全マネジメントの中核を担う重要な取り組みです。実務の現場で活かせる安全目標を作るためには、根拠に基づいた具体性と、社内全体で共有できる現実的な視点が不可欠です。まず最初に取り組むべきは、過去の事故件数やヒヤリハット報告などをもとに、課題を「見える化」することです。これは定量的データと従業員からの現場声を集約して分析することにより可能となります。
次に、課題に基づいた目標を設定します。この段階では「達成可能な数値目標」と「行動指針」の両面を意識することがポイントです。たとえば「年度内の交通事故ゼロを目指す」「全従業員が年2回の研修を受講する」といった目標は、具体的でありながら実施可能性の高いものとして有効です。
3つ目のステップは、策定した目標の社内共有です。この際に重要なのが、各部門にとっての関係性を明確にした説明です。たとえば、運転者は安全運転の行動指針に、整備管理者は車両点検体制に、運行管理者は点呼の徹底に関連させた形で説明すると、理解が深まりやすくなります。
4つ目は、目標の運用体制を整備することです。どの部署が、どの期間に、どのように達成度を確認するかを明文化し、年間計画表などに落とし込んで実行体制を整えます。
最後の5つ目は、目標の評価と見直しです。年度終了時に目標の達成状況を評価し、未達成の要因分析と改善点を抽出することが、次年度の目標策定に活かされます。このサイクルこそがPDCAによる安全対策の継続性を担保するものです。
以下のテーブルは、安全目標策定における基本ステップと注意点の一例です。
ステップ
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内容
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注意点
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現状把握
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過去の事故件数、違反歴、ヒヤリハットの集計
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単年だけでなく3年程度の推移を見ること
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目標設定
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事故ゼロ、研修受講率100%など数値目標の明示
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実現可能な範囲に設定し、抽象的表現を避ける
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社内共有
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部門別の関連付けを含めた説明資料作成と周知徹底
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全従業員の理解度確認も実施すること
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運用体制整備
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年間計画書の作成、責任者の設定
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役割分担と進捗管理の仕組みを作る
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評価と見直し
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年度末に達成度をチェックし翌年にフィードバック
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主観的な評価を避け、根拠をもって検証すること
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このように、策定から運用・見直しまでを一貫して行うことが、安全マネジメントの品質を左右します。単なる形だけの目標では意味を持たないため、組織として本気で事故ゼロを目指す姿勢が求められます。
安全目標を策定したら、それを社内で「見える化」することが重要です。多くの運送会社では、国土交通省の指導に基づき、営業所内や点呼場、休憩スペースなどに目標を掲示することが求められています。この掲示は、単なる義務遂行ではなく、従業員に日々の行動を振り返らせ、安全意識を高めるための有効な手段となります。
まず前提として、安全目標の掲示は全営業所に必要です。また、最新年度の目標であること、誰が責任者か、目標の期日なども明記する必要があります。掲示内容が古かったり、曖昧だったりすると、労働基準監督署や運輸局の監査時に指摘を受ける可能性があります。
掲示する際には、視覚的な工夫が求められます。文字だけの掲示ではなく、イラストやグラフ、写真を用いたポスター形式にすることで、見た人の記憶に残りやすくなります。たとえば「今月の安全目標」として、交通事故ゼロの宣言文やスローガンをカラフルに掲示し、従業員が毎朝自然と目に入る場所に配置することが効果的です。
さらに、現場従業員を巻き込んだ「手書き目標ボード」や「安全宣言メッセージボード」などを設置すると、主体的な意識の向上が見込めます。これは、自分の名前や決意を書き込むことで、行動への自覚が高まるため、事故削減への具体的効果も期待できます。
加えて、掲示内容は定期的に更新することも大切です。年度初めに掲示してそのままでは、次第に形骸化してしまうため、月次や四半期単位で掲示物を更新し、「動きのある安全文化」を演出する工夫が求められます。
なお、掲示する媒体も多様化しており、紙のポスターだけでなく、デジタルサイネージを活用する企業も増えています。これは、動画やアニメーションで情報を提示できるため、短時間で多くの情報を伝えるのに適しています。
このように、安全目標の掲示は義務であると同時に、会社の「安全文化」を伝える重要なコミュニケーションツールでもあります。見た目の工夫、従業員の参加、更新の継続性という3つの視点を意識して取り組むことが、掲示の効果を最大限に引き出す鍵となります。